朝井リョウ著「正欲」の感想

どうもこんにちは。
書畜です。

今日は性欲ならぬ、「正欲」(朝井リョウ著)を読んだので、その感想を書いていきたいと思います。「生き延びるために手を組みませんか」という帯のセリフと表紙の鴨の姿に惹かれ、思わず本に手を伸ばしました。

まだ、読んでいないけど、ちょっと気になっているという人もいると思いますので、まずは簡単に作者、あらすじ、登場人物についてまとめていきましょう。

正欲の著者の朝井リョウってどんな人?

著者の朝井リョウは、1989年生まれの31歳(2021年時点)で、なんと大学在学中にデビューをしています。デビュー作は、あの有名な「桐島、部活辞めるってよ」で、第22回すばる新人賞を受賞しています。

その後も順調に新しい作品を発表し、2013年には「何者」でなんと直木賞を受賞しています。当時、直木賞初の平成生まれの受賞者であり、男性受賞者としては最年少23歳の受賞者でした。なお、女性の最年少は1917年生まれの堤千代で、当時22歳で受賞しております。ただし、当時の文献に堤千代の生年月日に関する記述が複数あり、実は28歳の時の受賞なのではないか、といわれています。そうすると、朝井リョウが史上最年少受賞という快挙を成し遂げたことなりますね。

ちなみの僕自身もよく忘れてしまうのですが、芥川賞と直木賞の違いについて、芥川賞は新しい作家による純文学作品を対象に選ばれ、直木賞は新しい作家・中堅作家によるエンターテイメント作品を対象に選ばれます。朝井リョウは既に6年間のキャリアがある中堅で、さらに「正欲」も純文学ではなくエンターテイメント作品という事ですね。

正欲はどんな話なの?

生き延びるために、手を組みませんか。いびつで孤独な魂が、奇跡のように巡り遭う――。

あってはならない感情なんて、この世にない。それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ――共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か? 絶望から始まる痛快。あなたの想像力の外側を行く、作家生活10周年記念、気迫の書下ろし長篇小説。

出典:Amazon

もう少し具体的に書くと、色んな悩みを抱えた人が出てきて自分の生き方は正しいのかと苦悩し、葛藤する。そして、その苦しんでいる人たちが交差し、ドラマが生まれ、衝撃のラストへ向かっていく、というものです。より、具体的な内容については、感想の部分で書いているので、良かったら読んでみてください。

正欲の登場人物

寺井啓喜:検事。厳格な家庭で育ち、厳格な価値観を持つ
寺井由美:啓喜の妻
寺井泰希:啓喜の息子。引きこもり中
彰良:NPO法人の活動で知り合った泰希の友人

佐々木佳道:大手食品会社勤務
桐生夏月:佐々木の高校時代の同級生。モール内の寝具屋に勤務
那須沙保里:佐々木と同じモールの雑貨屋に勤務
西山亜依子:桐生の元同級生
西山修:桐生の元同級生

諸橋大地:大学3年生
神戸八重子:諸橋と同じ大学の大学生
よし香:八重子の友人。同じサークルに所属
桑原紗矢:八重子のサークルの先輩

矢田部陽平:小学校の非常勤講師

正欲の感想

読んだ直後の感想としては、「驚き」と「絶望」に尽きると思います。正直なところ、読後感は悪いです。では読まなければ良かったかというとそんな事はないです。さすが、朝井リョウの作品で、時系列や登場人物の交差、それぞれの登場人物の描写がすばらしく、テーマとは裏腹に引き込まれてしまいました。

タイトル通りに、「欲」について描かれているわけですが、何が正しい「欲」で、何が正しくない欲なのか分からなくなっていきます。恐らく一般人の象徴である八重子は、最近注目が高まっているLGBTや多様性というキーワードに関心があり、ダイバーシティーフェスを開催する訳ですが、八重子の薄っぺらい理解と軽薄な動機も同時に描かれています。世の中では多様性に理解が増したように見えても、実際は本を理解しておらず、ひとに寄り添う事もせず、結局のところ事態は変わっていないのではないか。むしろ、無関心より誤った理解の方がよっぽど有害なのではないか、というのが朝井リョウの伝えたかったメッセージなのではないでしょうか。

ちょっと脇道にそれますが、最近テレビでは、SDGsが流行りのように取り扱われていますが、これまた同様の現象が起きていると思わずにいられません。TV局はSDGsを番組のネタの一つとしか考えておらず、視聴者には全く刺さっておらず、結果として人々の行動が変わる訳では無い、と。そんな上滑りした状態が、「八重子」と重なって見えます。

表紙の鴨に隠された意味

皆さん、表紙の鴨について結局、なんだったんだろうと思いませんでしたか。
作中には鴨が出てくる訳ではありませんでした。

そこで、僕なりに考察をしてみたのですが、1)鴨、2)左足の銀の輪っか、3)逆さまにそれぞれのメッセージが込められているのではないでしょうか。

1)鴨について

鴨の暗喩は色々あるのですが、慣用句の一つに「鴨の水掻き」があります。これは、楽そうに見えても、実は人それぞれ苦労があること、の意味です。つまり、外から見て一見普通に暮らしているように見えても、一般に受け入れられない価値観を持っている人は内面では苦労をしていることを示していると思います。

2)足の銀の輪っか

足の銀の輪っかから皆さんは何を想像しますか?僕は囚人を想像しました。
囚人といえば罪を犯し狭い檻にとらわれている人ですね。

3)逆さま

水に向かって飛んでいるのか、ただ逆さまに落ちているのかで解釈が分かれると思いますが、普通はこんなに真っ逆さまに飛ぶことはないですよね。つまり、逆さまに落下している状態なのだと思います。大空を飛んでいたけど、おそらく何かの拍子に死んでしまって、落下しているのだと思います。

1)2)3)から、次のような解釈が出来るのではないでしょうか。
一般と異なる価値観を持っている人は日々非常な苦しみの中で生きています。それは、自分を世の中で”普通”と呼ばれる枠にあてはめ無理に生きるようなもので、まるで囚人のような暮らしです。そんな中で何とか生きようとするも、ふとした瞬間に死にたくなるような大きな絶望を味わうことがあります。それは、一見親切に見える八重子に出会うようなことかもしれません。そして、世の中は多様な価値観を受容する方向に動いているように見えるも、本質は何も変わっておらず、生きづらい世の中のままであると。

では。

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